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「子ども・戦争・歴史」

今年は第一次世界大戦の開戦から100年目にあたり、日本でも各種のシンポジウムが開催されました。そのひとつに、戦争とこどもと歴史について考えるというユニークな鼎談があり、招かれて話をしてきました。

会場にこられた人たちは、いかにも重そうなテーマなので心配していたらしいのですが、予想に反して、たいへん和やかでおもしろいシンポジウムでしたと、あとでコメントされていました。

141222学長だより「子ども・戦争・歴史」

ぼくは、話題提供として、第二次世界大戦中のイギリスを舞台にした『戦場の小さな天使たち』(1987年)という映画を紹介しながら、そこから3つの論点をとりだしてみました。

第一は、こどもの視線からみたら、戦争はどうみえるであろうかという点です。 この映画でいまでも強く記憶に残っているのは、学校がドイツ軍の爆撃をうけたあとのエピソードです。校舎からこどもたちが、もっていたカバンや教科書を放り投げ、両手をあげて飛び出してきます。逃げ出してきたことはまちがいないのですが、こどもたちは「ヒトラーありがとう」と歓声をあげ、小躍りしながら校門から走りでていきます。学校を破壊したドイツへの怒りや、戦争にたいする怒りよりも、学校から解放されたことの喜びが生き生きと表現されている感動的なシーンです。おもわず、そうだそうだと共感してしまいます。

ぼくたちは、こどもたちを戦争の犠牲者だと思いがちです。こどもは保護され、守られるべき存在であることはまちがいありません。ただ、その思いが強すぎると、ついついこどもは自分ひとりでは物事を判断できない存在だと決めつけることになりかねません。こどもはこどもなりに主体的に戦争とかかわっていたにちがいありません。こどもたちには大人たちとちがった世界がみえていたのでしょう。この映画から引き出せる第一の論点は、こどもを主体として、行為者としてとらえてみることです。それは本田和子先生のおっしゃる、こどもを「異文化」としてとらえてみるという人類学的方法ともつながってくるようにも思われます。

第二の論点は、戦争を体験した戦争児童世代、あるいは戦争体験児童世代という「世代」について考えることです。

この映画は、主人公ビル少年の目をつうじて戦争が描かれています。ビル少年には、1933年1月生まれで監督・シナリオ・制作をこなしたブアマンの戦争体験が反映されているといわれています。かりに1933年から1945年に生まれた世代を戦争児童世代と名づけると、かつてこどもとして戦争を体験したこの世代も、いまでは老境にさしかかっています。自分の一生を振り返り、とらえかえそうとするちょうどいい時期かもしれません。

ドイツでは毎年、この世代による回想録や自伝小説が1000冊も出版されているといわれます。日本でも自分史がブームとなっています。すぐれた歴史家、喜安朗氏による『天皇の影をめぐるある少年の物語-戦中戦後私史-』(刀水書房 2003年)というおもしろい本もでています。こうしたドイツと日本の戦争児童世代の回想を読み比べてみると、どんなことが浮上してくるでしょうか、興味のあるところです。

またこれと関連して、松永優子さんという研究者が「ドイツと比べた日本における戦争児童であったことの受け止め方」という学位論文を2012年にドイツの大学に提出されています。日独の聞き取り調査をもとにしたもので、ドイツ語で書かれておりますがネットで読むことができます。日独の聞き取り調査結果を比較すると、父親の長期にわたる不在をあげた人が、日本では42%なのにたいして、ドイツでは79%に達するということなど興味深い点が読みとれます。
(Die Verarbeitung der Kriegskindheit in Japan im Vergleich zu Deutschland.
http://edoc.ub.uni-muenchen.de/13963/1/Gfeller-Matsunaga_Yuko.pdf ,49頁と52頁)

第三点は、戦争のあとも続く父親の不在、あるいは孤児の問題です。

ビル少年の父親は戦争に志願し、あとは8歳の少年に託されます。幸いこの映画では、父親は無事帰還するのですが、そうでないケースもたくさんありました。

ドイツでは、第一次世界大戦で、兵士が約240万人戦死し、寡婦は60万人、片親の子が96万8000人、6万5000人が孤児となりました。第二次世界大戦では、ドイツ兵の戦死者数は倍の471万人となり、寡婦は170万人。片親の子は250万人、孤児は10万人となっています。ヨーロッパ全体では第二次世界大戦による片親の児童と孤児の数は1300万人にのぼるとされています。(Seegers, Lu, »Vati blieb im Krieg«, Göttingen : Wallstein, 2013.10頁) 日本でも、戦災孤児や満洲残留孤児の問題が注目されています。孤児という点では、東北再生私大ネット36が今年11月に開催した第二回シンポジウムで、興味深い報告に接しました。このシンポジウムには、こども教育宝仙大学も幹事校として参加しており、本学の学生から、南三陸の市長さんに夏のプログラムの記念品が贈呈されております。孤児に関係するのは「子どもと教育の現場から学ぶ旅」というプログラムで、被災にあった現地のひとびとからの聞き取り調査の内容が報告されていました。そのなかで、震災孤児について現地でケアにあたっている先生がたが、孤児たちは「自分が強くならなければならない」と思っている、そうした「こどもたちの強さ」に心を打たれたというものがありました。孤児のけなげさ、強さというのは、ぼくたちの常識を裏切る発見で、これもひとつの論点になるかと思います。

孤児についても、国際比較もふくめて、あらたな切り口からの研究が期待されるところです。

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