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平成26年度学位記授与式 学長式辞
染井吉野の開花ももうすぐのようですが、夕暮れどきに宝仙寺の横を歩いていると、どこからともなく沈丁花の甘い香りが漂ってきました。花の姿はみえませんでしたが、ああ、やっと春になったのだなと、春の到来を実感することができて、すこし心がはずみました。
春の良き日、ここにこども教育宝仙大学は第3回目の卒業生を、めでたく社会に送り出すことになりました。
ご来賓のみなさまには、たいへんお忙しいなか、ご来席を賜り、どうもありがとうございました。厚く御礼申し上げます。
また、この4年間、学生たちを見守り、こども教育宝仙大学を支えてくださいました保護者のみなさま、本日はたいへんおめでとうございます。心より、お祝い申し上げます。
そして卒業生のみなさん。ご卒業おめでとうございます。
4年間の大学生活はいかがでしたか。友人との出会いや、長期間にわたる実習の日々、楽しいことも、つらいこともあったかと思います。よくハードな学修にたえて、無事、今日この日を迎えてくれました。教職員一同、あらためてみなさんに敬意を表したいと思います。
さて、本日めでたく卒業いたします学生諸君は、2011年春の入学生です。2011年の春といえば、あの東日本大震災が発生したときにあたります。
あの大震災以来、悲観的な人は、「未来が見えなくなった時代」といって不安感をあおりますが、わたくしはそうは思いません。
未来は見えないから、おもしろいのです。見えないからこそ、なんとかしようとし、自分たちの手で未来を切り拓こうという気持が生まれるのではないでしょうか。
たしかに、グローバル化と少子化が同時に進行する現在、「社会が安定していた時代」や「秩序が保たれていた時代」は、もはや幻想となり、それをふりかえるのもノスタルジーにすぎなくなっています。
保育の現場をみても、それがよくわかります。いまや保育者は、さまざまな国の子どもや保護者を相手にしなければならなくなり、英語力も求められる時代になってきました。また、家族のあり方も社会とともに大きく変化しています。障害や心の問題をかかえた子どもも増えてきているように思われてなりません。
もともと保育は、こどもひとりひとりに柔軟にむきあうことが求められていますが、これからはそれがもっともっと必要になることでしょう。
しかし、それでも心配することはありません。みなさんは、現在はまだ意識していないかもしれませんが、4年間の学びのなかで、知恵の種を蒔かれているからです。あまり保育とは関係ないようにみえ、無駄のように思えた授業なども、これからみなさんが困難な問題や、想定外の事態に直面したときに、その意味が分かり、「知恵」となって生きてくるからです。
たとえば、本学は昨年、オーストラリアで多文化保育研修をはじめて実施いたしました。今年の卒業生のなかからも2名が参加してくれました。みなさん、言葉がなかなか通じないということを経験したかと思います。
でも、なぜ言葉は通じないのでしょうか。 英語だからでしょうか。それとも日本語だからでしょうか。なぜ世界の言語はちがうのでしょうか。そんなことは当たり前だとお思いでしょう。でも、こうした当たり前に思われることを、あれこれ考えるゆとりというか、チャンスがあるのが4年制の大学のいいところです。
そもそも言語は他者とのコミュニケーシェンをはかり、理解を深めるための道具のはずです。それが理解を阻み、隔て、わからないようにする道具であるのは、なぜなのでしょうか。世界には言語が1つあればいいのに、なぜたくさんの言語ができてしまうのでしょうか。
ネットで調べてみると、数えかたや、定義にもよりますが、世界にはおよそ3000から8000ぐらいの言語があるといわれているようです。そして、ネパールのような小さな国でも、120以上の言語が存在していると書いてあるページもありました。
なぜ、こんなにたくさんあるのでしょうか。それを考える手がかりが、いまみなさんが使っている若者言葉かもしれません。なぜ若者たちは、いつの時代にも、若者言葉を生みだし、世のお年寄りから、美しい日本語を乱し、崩していると批判されつづけてきたのでしょうか。
それは言葉が仲間同士のコミュニケーシェンの手段であって、自分の仲間たちとそうでない人たちとを簡単に識別する手段でもあるからです。 みなさん若者は、自分たちが上の世代や下の世代とはちがうことを確認するために、自分たちの言葉を日々進化させてきたのです。 同じ言葉が、お互いの意思疎通や理解を促進すると同時に、「ほかのひとたち」と「ぼくたち」を区別し、通じさせなくするという二面性をもっているのです。
いじめについても同じことがいえます。自分らしさや、自分たちの仲間の結びつきを確認するためには、自分たちとちがう他者が必要です。他者がいなければ、他者をつくりださなければならないというのが人間のありかたなのです。
このようにみなさんは、ものごとは一面的でなく、いろいろな角度から考えてみることのおもしろさや、言語やいじめという別の物事を結びつけて考えてみるおもしろさを、大学で学んだはずです。これが知恵の種で、これから社会に出たときに、きっと役にたってくるでしょう。
ところで、困難な時代を生きていくには、知恵だけでは足りません。何よりも夢と情熱が必要です。
先日、みなさんの卒業研究発表会に同席いたしました。研究の中身もさることながら、みなさんの発表する態度が堂々としていて、4年間の学びの成果を実感することができました。
なかでも感銘をうけたのは、あるグループの研究です。それは、理想の保育園をつくるというプロジェクトでした。そのメンバーは、法律や制度を調べただけでなく、建物についても「角のない建物」というコンセプトを考え出し、他大学の専門家の協力をえて、建築模型までつくりあげたのです。
なによりわたくしが感動したのは、このグループが将来、力をあわせて理想の保育園をつくろうという夢をもっていたことです。卒業研究はその夢の実現にむけた第一歩だったのです。夢を実現しようとする情熱が、未来を育み、困難な時代を切りひらいていくことになるのだと、そのとき、はたと思い至りました。こうした学生たちを世におくりだすことができて、本当にうれしくなりました。わたくしは、みなさんを誇りに思っております。
ところでみなさんお気づきかと思いますが、現在、大学の隣に新しい建物が完成しつつあります。宝仙コモンズといいます。コモンズという名称にしたのは、在学生だけでなく、卒業生のみなさまにも、気楽に大学に立ち寄ってもらえる場をつくりたかったからです。卒業生に開かれた大学、それが本学のめざすところであります。
最後に、わが国の児童学に新しい領域を開いた本田ますこ元お茶の水女子大学学長の言葉を引用して、わたくしの送る言葉とさせていただきます。
「それではみなさん、行ってらっしゃい」
平成27年3月19日 こども教育宝仙大学長 山本 秀行