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平成28年度学位記授与式 学長式辞(要約)

4年前の入学式は雨のなかでした。4年後の本日は好天に恵まれました。
暖かい春の日差しのもとで、学位授与式を挙行することができ、たいへんうれしく思っております。卒業生のみなさん、厳しい学修によく耐えて、今日のよき日を迎えてくれました。教職員一同、心からみなさんのご卒業をお喜びいたします。

さて、縁あって私が本学の学長に着任いたしましたのは、いまから4年前のことでした。みなさんとは同期になります。私にとっては、目新しいことばかりなので、なかなかたいへんでしたが、とても面白い4年間でした。みなさんはいかがだったでしょうか。

新たなプログラムも始まりました。先ほど認定証を授与しましたマイスター制度もそのひとつです。保育の幅を広げる「もうひとつの力」を身につけて欲しい、との思いから始めたものです。マイスターというと個人技のように聞こえますが、先日、「食育おやつマイスター」の認定試験に立ち会っていて、おもわぬ効果が見えてきました。いっしょにマイスター修行に励んできた学生たちが、園児の面倒をみたり、ごく自然に裏方を務めて、仲間を支えていたからです。個人技のようでも、協力し、協働するという力も同時に育まれているようで、うれしくなりました。

また課外プログラムでは、新たにオーストラリア研修が始まりました。海外で保育英語の訓練と、多文化保育研修を同時にやろうとする欲張ったプログラムです。福岡先生と佐藤先生のご尽力がなければ、とうてい実現は不可能でした。ここまで育てていただいた両先生には大変感謝しております。参加したみなさんのレポートからは、保育のスタイルが国によってこんなにも違うのか、という驚きが伝わってきます。たとえば、日本では食事は給食制で、保育者や給食係の園児が配膳いたします。ところがオーストラリアの幼保園では、食事の時間もまちまちで、園児が自分で好きなものをとって食べる方式で、日本のように完食に重きをおいていないようです。オーストラリアでは6年前に保育方針が変更されて、こどもの自主性や個性、興味を重視する保育に転換したとのことです。その現場を実際に体験することで、あらためて日本の保育のよさと、問題点も見えてきたようです。自分のなかで保育の世界が広がりましたとか、考え方の幅が広がりましたという感想も多く、よい刺激になったようです。

さて、みなさんはこれから社会にでると、思いもかけない状況や、困難な状況と向きあい、それを乗り越えていかなければならないときが必ずやってくると思います。もちろん大学では、そうしたばあいの対処の仕方について勉強し、訓練はひととおり済ませています。しかし、それでも埒があかないことが、現実にはよくあります。

先月の、2月24日でしたか、たまたま深夜のNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組をみていました。絶対に緩まないネジを発明した道脇さんという方が紹介されていました。御覧になった方もおられるかもしれません。ネジは振動によって緩んでしまいますが、絶対に緩まないネジを発明した道脇さんは、それに満足することなく、さらに一歩進んで、こんどは絶対に緩まないが、調整するときには簡単に緩めるこのとのできるネジの開発にとりくみます。まさに盾と矛のような矛盾した課題です。この無理難題をどのように解決していったのかを追ったのが、この番組でした。道脇さんが、板挟み状態からブレイクスルーすることができた秘訣は、2つあったように思います。放送を見ていて、思わず膝をのりだしてしまいました。この2つのポイントは保育にも応用できそうだと気がついたからです。

ひとつは、作り手の発想をすてて、使う側の視点から徹底的に考えなおすことです。
日本の技術はあるところまで進歩すると、そこからは人間のほうが、機械や道具にあわせるようになります。道具と人間が一体化し、職人技が評価されるという文化があるからでしょうか。それを自覚したうえで、使う側の利便性を優先したことが、技術を進める原動力になったように思います。保育にひき寄せて考えれば、困ったときには、まずこどもの思いに立ち返り、こどもの目線にたって、見つめなおしてみることが大事ということではないでしょうか。保育はこどもが原点です。

もうひとつは、ネジをちょっと緩めることです。
その分野の常識や思い込みをすこし緩めてみることです。道脇さんがいうには、一枚の紙には普通は裏と表の二面しかありません。しかし拡大鏡を使えば、4つの縁も立派な面にみえてきます。これで6面です。さらに倍率を上げていけば、平らにみえる紙もデコボコで、ついには繊維がからみあうジャングルがみえてきます。紙は平らなものという思い込みや常識をいったん緩めてみると、これまで見えなかった景色が見えてきて、あらたな発想が生まれてくるというものです。

これも保育に応用できるのではないでしょうか。こどもの世界は、見かけよりずっと奥深く、こどもも一人ひとりさまざまで、個性的です。困ったときにはこれまでの考え方のネジを少し緩めてみましょう。そうすると、思いもよらなかったこどもたちの世界が見えてきて、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。最短距離を脇目もふらずに駆け抜けることも重要ですが、ネジを緩めて、周りの景色や、季節の移ろいを楽しみ、発想を変えていくことも役にたつかもしれません。

困ったときには、ひとりでかかえこまないで、相談するのが一番ですが、今日お話ししましたように、まずこどもという原点に立ち戻り、そこから考えてみること、そして常識のネジをすこし緩めてみたらいかがでしょうか。もちろんネジは緩めても、品格と知性は忘れないでください。

大学で学んだ知識はそのままではなかなか通用しません。
現場にでて、経験を積み、実践を重ねる中で、とらえかたや、意味がわかってくるものです。知識を生きた知恵にかえていくのはみなさんです。これこそ本学の創立者がかかげた建学の精神にほかなりません。

そして本学はみなさんの母校です。困ったときだけでなく、うれしいことがあったときにも、ぜひ本学に立ち寄って、後輩や教職員みんなにおすそ分けしてください。

21世紀の未来は、みなさんにかかっています。ぜひ明るい未来をみんなで育んでいきましょう。それではみなさん、行ってらっしゃい。

平成29年3月19日
こども教育宝仙大学長 山本 秀行

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