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研究室レター

泥だんごとこども

利根川 彰博准教授
専門
子ども学
保育学

子どもは2~3歳にもなると、砂場で遊んでいるときに、湿った砂を何気なく握り、だんご状にしている姿もよく見かけます。もちろん、大人とのやり取りに導かれてやるという場合もありますが、砂と戯れていると、つい握って形づくってしまう、という側面があるようです。
 そうしたことから始まり、幼児期になるとお兄ちゃんお姉ちゃんのつくっている泥だんごに魅せられて真似してつくり始めたり、つくり方を教えてもらったりして、次第に本格的な泥だんごをつくるようになっていきます。どこのどんな土を使うのか。上にかける砂はどこのものが良いのか。サラサラの砂はどうやって確保するのか。どのくらいの力をこめるのか。学ぶべきことは少なくありません。また、つくっている途中で割れてしまったり、ひびが入ってしまったり、困難に直面することも珍しくないのです。また、よい泥だんごに仕上げるまでにはある程度の時間が必要となります。仲のよい友達とおしゃべりを楽しみながら泥だんごをつくる姿もありますが、無言で集中している姿もあります。いったん休憩をはさんでだんごを寝かせ、水分の抜け具合を見計らって仕上げにかかるなど、先を見通した取り組み方も必要になってきます。
こうした遊びは、かつては子ども集団の間で伝承されるものでした。私も子どもの頃、近所のお姉ちゃんに土の選び方からつくり方まで教わりながら、友だちと泥だんごづくりに夢中になっていた時期がありました。3~4歳年上のお姉ちゃんの泥だんごは、自分たちのつくるものよりも固く、そして光っていました。「かけっこで勝った人に、このだんごをあげる」などと言われ、かけっこの真剣勝負に挑んだ記憶もあります(勝ったか負けたかは覚えていませんが)。地域での異年齢の子どもの遊び集団が消えてしまったと言われて久しい現代では、泥だんごづくりは幼稚園や保育園などでしか行われていないのかもしれません。しかも、自分で遊びを自由に選択することができ、取り組む時間が用意されている園でなければその姿を望むことはできないかもしれません。
保育者の中には泥だんごづくりの名人と呼ばれるような人もいて、まん丸でピカピカと光る芸術品のような泥だんごをつくっています。そんな泥だんごの魅力にハマってしまった研究者、加用文男さんは保育園に通うたびに自ら泥だんごをつくり、そのつくり方を研究したり、子どもたちの泥だんごづくりの実際を観察したりしていました。2001年、その成果を本にまとめたり(加用 文男 (著)光る泥だんご.ひとなる書房)、NHKにんげんドキュメント「光れ!泥だんご」(2001年放送)として放映されたことで、全国各地の保育現場で泥だんごブームが起きたこともあります。
仲間との関りがあったり、自ら土と真剣勝負をしたりして、その結果得た光る泥だんごは、何物にも代えがたい宝物となります。こうした体験は「泥だんごづくり」でしか得られないわけではありませんが、こうした体験にじっくり取り組める幼児期であって欲しいと思います。