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研究室レター

音環境とこども

須永 美紀教授
専門
幼児教育学
保育学

 

 みなさんは、保育の場の「音」について考えたことがありますか?幼稚園や保育園では、子どもたちが元気いっぱいに遊んでいる姿があります。子どもの声、保育者の声、ピアノなどの楽器の音や子どもたちが歌う声、走り回る足音、食器の触れ合う音など、保育の場はいろいろな音でいっぱいです。私は、幼稚園教諭だったころ、音に非常に敏感な子どもに出会い、自分が当たり前だと思っていた保育室や保育施設全体の音環境について疑問を持つようになりました。

 近年、低年齢の子どもであっても保育の場で長時間過ごす場合も少なくありません。子どもは、自分の身の回りの音をどのように聴いているのでしょうか。0歳児の子どもの「聴く力」について見てみましょう。最近の研究によると、0歳児はとてもよい耳の持ち主であることがわかっています。生後6か月ごろには、単純な音に関していえば大人と同じぐらいの聴力をもっています。しかし、複数の音を聴くことは苦手です。これは、子どもの聴く力と大人の聴く力の大きな違いです。

 私たち大人は、にぎやかなカフェなどで友達と会話をすることができます。また、イヤフォンで音楽を聴きながら仕事をすることもできます。周囲にたくさんある音の中から「聴く」「聴かない」を自分で選択することができるのです。先ほどご紹介したように、乳児期や幼児期の子どもは、まだそれが上手にできません。選択的に音を聴くことができるようになるにはもっと時間がかかるのです。

 このような「聴く力」の特徴を持つ子どもが、幼稚園や保育園で常にたくさんの音の中に置かれたらどうなるでしょう。特に、まだ小さい0歳児や1歳児にとっては長時間、音にあふれた保育室内にいる状態は負担が大きいですし、居心地のよいものではないでしょう。子どもの「聴く力」を育むという観点からも、保育者は保育室の音環境に積極的に目を向けることが望まれます。笑い声にあふれ、活気がある場面ももちろん大切です。一方で、保育者の語りかけがはっきり聴こえる、子どものふとした発話をしっかりキャッチすることができる、子どもが自分のやりたいことに集中できる、自分が手にしているおもちゃの音を楽しむことができる、子どもの耳に優しくおだやかな音環境の重要性も考えたいですね。