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物理というと、皆さんは何をイメージしますか? 「なんだか難しそう」と感じる人もいるかもしれません。
物理は日常生活にあふれています。ここでは、私が保育所保育士として勤務していた頃のある日のエピソードを紹介します。
巣作りをしているくもが軒先にぶらさがっているのを見て、くもに向かって息を吹きかけている年長児の姿がありました。すると、糸にぶら下がっているくもがブランコのように揺れるわけです。くもがかわいそうじゃないかという他のこどもの声もありましたが、くもを見たら息を吹きかけないと気が済まないのがそのこどもでした。
その日から3か月くらい後だったと思いますが、その年長児が私に声をかけてきて「すごいよ! 今日のくもはびゅんびゅん早く動くんだ!!」と私を呼びに来ました。手を引かれるようにそのこどもについていくと、かなり短い状態の糸にくもがぶらさがっているのが見えました。「なんでこんなに早く動くんだろう? くもが元気なのかな?」と言うこどもの声に「なんでだろうねぇ」と答える私。
この「なんでだろう?」をともに探っていくことがおもしろいと直感しましたが、その「なんでだろうねぇ」で終わってしまった当時の私が今となっては悔やまれます。興味・関心から「なんでだろう?」と思った素朴な疑問を探り、その疑問を追究していくことで自ら考える力・科学的思考力が身についていくわけですが、そのチャンスを逸してしまったことを後悔しています。
この現象は「単振り子」といって、振り子時計の原理そのものです。振り子が揺れる周期は、糸の長さのみに依存し、重さ(ここではくもの大きさです)に依らないことがわかっています(高等学校の物理学で学ぶ内容です)。しかし現象の本質は、年長児にも気づくことができるものです。
「空はなぜ青いのか」「雲はなぜ白いのか」「明るい電気(電球)もあれば暗い電気(電球)もあるのはなぜか」「庭の黒い土はよくかたまるのに、白砂はかたまらないのか」、これらは全て私が保育園児から聞いた言葉です。こどもの「なんでだろう」の言葉にアンテナを立てて、一緒に考えていくことのできる保育者であってほしいと思います。